吹石れな──ブラウン管の向こう側の、あの人の、誰にも言えない秘密の物語

夕方のニュース番組。 少し緊張した面持ちで、それでも、凛とした声で、よどみなく言葉を紡ぐ、地方局のアナウンサー。 その知的で、清らかで、手の届かない存在だったはずの「あの人」。

「吹石れな」

彼女がその人だと知った時、私たちは、まるで世界の秘密を一つ、暴いてしまったかのような、めまいにも似た興奮と罪悪感に襲われた。 ブラウン管という境界線の向こう側で、常に正しく、美しくあろうとした彼女。その整然とした仮面の裏に、これほどまでの情熱と、潤んだ欲望が隠されていたなんて。

彼女の魅力は、そのあまりにも鮮烈な「ギャップ」にある。 アナウンサーとして培われたであろう、気品のある佇まい、美しい言葉遣い。その「知性」と「理性」の象徴とも言える彼女が、我々の前でだけ、そのすべてをかなぐり捨て、一人の女性としての、どうしようもない本能を曝け出していく。

その姿は、あまりにも背徳的で、あまりにも美しい。 特に、彼女の瞳に時折宿る、儚げな光。 それは、まるで満たされない何かをずっと探し求めてきた魂が、ようやく安住の地を見つけたかのような、切ない安堵の色に見える。 安定した職業、社会的な名声。その全てを捨ててまで、彼女が本当に伝えたかった「ニュース」とは、自分自身の心の叫びだったのかもしれない。

私たちは、彼女の作品に触れるとき、単なる映像を見ているのではない。 一人の女性が、社会的な役割という名の窮屈な衣装を脱ぎ捨て、本当の自分を解放しようとする、その痛々しいほどに純粋な瞬間に、立ち会っているのだ。

吹石れな。 彼女は、あの日のニュース番組で、決して読み上げられることのなかった、自分自身の物語の、最も大切な原稿を、今、その身体をもって、私たちに語りかけている。 私たちは、その誰にも言えない秘密の物語の、たった一人の、忠実な読者なのだ。