若宮はずき ── 夏の光をぜんぶ吸い込んだ、ショートカットの幻

僕たちの記憶の中に、決して色褪せることのない「夏の少女」がいる。風に揺れるショートカット、日に焼けた肌、そして、入道雲にも負けないくらい、まぶしい笑顔。僕にとって、「若宮はずき」という女優は、そんな忘れかけていた青春のきらめき、そのものだった。

彼女が僕たちの前に現れたのは、まるで夏の始まりを告げる合図のようだった。当時、ロングヘアの女優が主流だった中で、彼女の潔いほどのショートカットは、あまりにも鮮烈で、爽やかな風のように僕たちの心を吹き抜けていった。

彼女の魅力は、そのボーイッシュな佇まいの奥に隠された、あまりにもピュアな少女の心にあった。屈託なく笑うその顔は、真夏の太陽のように力強く、見ているだけで元気をもらえるような不思議な力があった。まるで、同じクラスの、少し活発で、いつも輪の中心にいる人気者のよう。僕たちは、そんな彼女に淡い憧れを抱き、遠くからその姿を見つめているだけで幸せだった。

しかし、僕が本当に心を奪われたのは、その太陽のような笑顔が、ふと曇る瞬間だった。

ふとした瞬間に見せる、どこか遠くを見つめるような、物憂げな表情。それは、楽しい夏祭りの帰り道に一人で感じる、あの言いようのない寂しさに似ていた。彼女がただ元気なだけの少女ではないことを、その一瞬の翳りが雄弁に物語っていた。その危ういバランスの上に成り立つ彼女の魅力に、僕たちはどうしようもなく惹きつけられてしまったのだ。

彼女の活動期間は、真夏の夜の夢のように、あまりにも短かった。まるで、いちばん輝かしい季節が永遠に続くかのように錯覚していた僕たちは、そのあまりにも突然の別れに、ただ立ち尽くすしかなかった。夏休みが終わってしまった後の、あの空っぽの教室のような喪失感。

今でも、蒸し暑い夏の夜に、ふと彼女のことを思い出す。風に揺れていたショートカットの残像と、耳に残る快活な笑い声。彼女が残してくれたのは、扇情的な記憶ではなく、甘酸っぱくて、少しだけ切ない、僕たちだけの「夏の思い出」だった。

若宮はずき。彼女は、僕たちの心の中に永遠に生き続ける、夏休みだけの同級生。そのまぶしい笑顔の幻を、僕はきっと生涯忘れることはないだろう。