川越にこ ── 雪の結晶のように、触れたら消えてしまいそうで

世界には時々、本当にこの世の存在なのだろうかと、目を疑うような少女が現れる。2021年に僕たちの前に舞い降りた「川越にこ」は、まさにそんな、あまりにも儚く、あまりにも美しい幻影だった。

彼女の第一印象は、その圧倒的なまでの「透明感」だった。いや、透明という言葉でさえ、彼女の存在を表現するにはまだ色が濃すぎる。あえて言うなら、それは真冬の朝、窓ガラスに付着した、繊(かぼそ)い霜の結晶。光を受けてきらめくけれど、次の瞬間には、太陽の熱で溶けて消えてしまいそうな、そんな危うい美しさ。

透き通るような、というよりも、血が通っていないのではないかと心配になるほどの白い肌。その肌と対照をなす、しっとりとした黒髪。そして、小動物のように、いつも何かにおびえているかのように潤んだ大きな瞳。

彼女の魅力は、その「守らなければ」と本能を直撃するような、究極の庇護欲にあった。彼女が画面に映し出されるたび、僕は息をのんだ。この壊れやすい存在を、この世界の荒波に触れさせてはいけない。そんな、ほとんど父親にも似た、切実な祈りのような感情が胸を締め付けるのだ。

彼女の作品は、いつもどこか切なかった。たとえ笑顔を見せていても、その笑顔は、まるで泣き出すのを必死でこらえているかのように見えた。その瞳の奥に宿る、深い寂しさや不安。僕たちは、その心の奥底に触れたいと願いながらも、その繊細な硝子細工を壊してしまうことを恐れ、ただ遠くから見守ることしかできなかった。

「にこ」という名前とは裏腹に、彼女のまとっていた空気は、常に静かで、冬の匂いがした。

そして、まるでそのイメージを裏切らないかのように、彼女が僕たちの前にいた時間は、あまりにも短かった。まるで、手のひらに舞い降りた雪の結晶が、こちらの体温で静かに溶けて消えてしまったかのように。彼女はふっと、僕たちの前から姿を消した。

もう、あの潤んだ瞳に新しく出会うことはない。 しかし、それでよかったのかもしれないと、今になって思う。あの奇跡のような透明感が、永遠に汚されることなく、僕たちの記憶の中で最も美しいまま保存されたのだから。

川越にこ。 彼女は単なる女優ではない。僕たちの心の中に永遠に刻まれた、真冬に見た、束の間の美しい夢。その消えてしまいそうな光の残像を、僕はきっと、これからも何度も思い出し続けるのだろう。