松本梨穂──あのステージで見ていた、きらめく夢の、その先の物語
あの頃、僕たちは、ステージの上で輝く彼女に、確かに夢を見ていた。 スポットライトを浴び、汗を流し、満員の観客に、無垢な笑顔を振りまいていた、超有名アイドルグループの、あの女の子。 その夢が、ある日、ぷつりと途絶えた。 そして、彼女は、僕たちの前から姿を消した。
物語は、そこで終わったはずだった。
「松本梨穂」
その名前と共に、彼女が、再び僕たちの前に現れるまでは。 以前とは、あまりにも違う世界で。あまりにも違う、輝きをまとって。
そのデビューは、衝撃だった。 しかし、それ以上に、僕の心を支配したのは、一つの、切ないほどの問いだった。 あの、キラキラとした夢の世界で、彼女は、一体、何を思い、何に絶望し、そして、何を求めて、この場所へと辿り着いたのだろうか、と。
彼女の作品に触れることは、まるで、かつて応援していたアイドルの、誰にも見せることのなかった、秘密の日記を、こっそりと読んでいるかのような、罪悪感と、背徳感に満ちた体験だ。
恋愛禁止という、厳しい掟。 常に清純であることを求められる、息苦しさ。 その、作られた偶像(アイドル)という名の、重い鎧を、彼女は、自らの意志で、脱ぎ捨てたのだ。 一人の、生身の、欲望を持つ「人間」に戻るために。
彼女が、作品の中で見せる表情。 それは、単なる演技ではない。 これまで、ずっと、心の奥底に押し殺してきた、本当の感情。その、あまりにも激しく、あまりにも正直な、魂の叫びだ。 だからこそ、その姿は、痛々しいほどに切なく、そして、神々しいほどに、美しい。
松本梨穂。 彼女は、僕たちが見ていた、あのきらびやかな夢の、その先の、残酷で、しかし、あまりにもリアルな「現実」を、その身をもって、見せてくれている。 アイドルを辞めても、人生は続く。 いや、むしろ、そこからが、本当の人生の、始まりなのかもしれない。
僕たちは、一人の少女が、偶像であることをやめ、一人の「女」として再生していく、その、あまりにもドラマチックな物語の、最初の目撃者なのだ。 その覚悟を、その選択を、今はただ、静かに、そして、熱く、見守りたい。

