90年代後半のビデオショップの照明の下で、パッケージに印刷された女優たちの瞳と視線が合う瞬間、まるで自分だけが彼女の秘密を共有してしまったかのような錯覚に陥ることがありました。数多くの美少女たちが綺羅星のごとく現れては消えていった1997年という時代において、ひときわ純度の高い「少女の物語」をまとって私たちの前に現れたのが、上原あやかさんでした。
1979年2月12日生まれ、東京都出身。身長153センチという、少し背の高い男性ならすっぽりと胸のなかに隠してしまえそうなほど小柄な体躯に、85・58・87という柔らかな曲線美を秘めた彼女。1997年にデビューした多くの女優たちのなかでも、1979年生まれの彼女は文字通り「当時の最も瑞々しい18歳」として、私たちの目の前に降り立ちました。
彼女の旅立ちは、名門・英知出版からのヌード写真デビューや、イメージビデオ『制服協奏曲』という、まさに美少女グラビアの王道から始まりました。まだ制服の似合うあどけない少女が、カメラの前で少しずつ衣服を解き、自分の身体の美しさに目覚めていく。その静かな助走期間があったからこそ、1997年7月31日、美少女レーベルの最高峰である宇宙企画から『メルヘン』というタイトルでAVデビューを果たしたときの感動は、言葉にできないほど大きなものでした。
『メルヘン』から始まった1997年の宇宙企画での彼女の軌跡は、今振り返ってもため息が出るほど美しいタイトルばかりが並んでいます。続く『ラブレター』、『秘密の花園』、11月の『アリスの純真』、そして12月の『ANGEL』。まるで一冊の少女小説の目次をめくっているかのような錯覚すら覚えるこのラインナップの中心に、上原あやかという18歳の少女は立っていました。
当時の宇宙企画が作り出す、どこか現実離れした透明感のある映像世界のなかで、彼女は文字通り「不思議の国のアリス」であり、汚れを知らない「天使」そのものでした。小柄な身体を震わせながら、まだ見ぬ大人の世界へと一歩ずつ足を踏み入れていく彼女の姿には、見ているこちらが思わず息をひそめてしまうような神聖さと、同時にそれを壊してしまいたいという矛盾した衝動を呼び起こす、不思議な引力がありました。
そんな1997年の締めくくりとなる12月20日、彼女が最初に旅立った場所である英知出版から、写真家・前場輝夫氏の撮影による写真集『兎の眼』が出版されました。私はこの『兎の眼』というタイトルに、上原あやかという女優の本質がすべて言い尽くされているような気がしてなりません。
カメラを見つめる彼女の瞳には、いつもどこか小動物のような微かな怯えと、純粋さゆえの潤みが宿っていました。まるで、深い森のなかで不意に人間に見つけられてしまった白い兎が、逃げることもできずにただじっとこちらを見つめ返しているかのような、あの無防備で切ない眼差し。その「兎の眼」に見つめられるたび、私たちは言いようのない保護欲と、胸の奥が締め付けられるような甘い痛みを覚えたのです。
年が明けた1998年、1月に『スーパーBEST』で宇宙企画での美しい季節にひとつの区切りをつけた彼女は、春から新たな世界へと飛び込んでいきます。3月に老舗KUKIからリリースされた『あやか売ります』、そして4月の『いただきます』。前年の『メルヘン』や『アリスの純真』といった夢見心地な世界から一転して、どこか生々しく、直接的な響きを持つタイトルへと変わったことに、当時の私は少しばかりの戸惑いと、それ以上の強い興奮を覚えました。無垢だった花園の少女が、現実の欲望のなかに引きずり出されていく。その過程こそが、単体女優が最も妖しい輝きを放つ瞬間でもあったからです。
さらに5月にはアトラス21の看板シリーズ『NEO 出血大制服 40』に出演し、続く6月には『上原あやかの生フィギュア』をリリース。この「生フィギュア」というコンセプトは、CD-ROM作品『生フィギュア弐号機・上原あやか』としても展開されました。1998年という、インターネットやデジタルメディアが急速に日常へと浸透し始めた時代ならではの企画であり、153センチの彼女の小柄で完璧なプロポーションは、まさに画面のなかに閉じ込めておきたくなる精巧なドールそのものでした。
その後、秋に『上原あやか 秘蔵』や『VINLハウスの果実たちVOL.9』などを残し、彼女は1997年から1998年という短い活動期間を終えて、静かに表舞台から去っていきました。しかし、2000年代に入ってDVDの時代が訪れてからも、『宇宙企画Memorial 上原あやか』をはじめとする数々の復刻盤がリリースされ続けたことは、あの頃の彼女の輝きがいかに多くの人の心に深く刺さっていたかの証明にほかなりません。
メルヘンと名付けられた真夏の夢から始まり、冬の『兎の眼』を経て、春から夏にかけて大人の女へと駆け上がっていった一年あまり。ふと当時の映像や写真集を開けば、そこには今も変わらず、少し潤んだ大きな瞳でこちらをじっと見つめる18歳の上原あやかさんがいます。彼女の残したあの「兎の眼」の記憶は、90年代の終わりという特別な季節の空気とともに、これからも私の心の奥底で、決して色褪せることなく静かに息づいていくのだと思います。

